意外なリスニング訓練
私のスイス生活は、まず、チューリヒの語学学校での1ヶ月のドイツ語集中コースから始まりました。その際お世話になったのが、その後帰国まで交流の続いたホームステイ先の人たちです。日本の英会話学校に斡旋してもらったファミリーですが、最初にプロフィールを見たときはちょっとびっくりしました。
勉強に集中したいので子供のいない家庭を希望したにもかかわらず、この家の夫婦には子供がふたりいました。しかも、肉や魚を一切食べないベジタリアンの一家だったのです。(ということは、私もベジタリアンの食事ってこと?)
ただ、新たなファミリーを紹介してもらうのは時間がかかりそうだったので、この条件でよしとせざるをえませんでした。
このご一家にはいろいろとお世話になりましたが、特にドイツ語の習得に関しては非常に恵まれた環境でした。
というのも、奥さんがドイツ人でスイス方言を話すことができないため、家庭内では皆が標準ドイツ語を話す決まりになっていたのです。旦那さんと子供たちは、外では周囲の人とスイス方言を話し、家では標準語、というふうにきちんと使い分けていたようです。
だから、私は街を歩いていても方言が聞き取れないいっぽうで、家の中ではきれいなドイツ語に絶えず触れることができたのです。
もうひとつラッキーだったのが、一家の中で絶大な権力をもっていた奥さんが、大変なおしゃべり好きだったことです。外で働いていた彼女は、朝早く出勤して午後に帰宅し、家にいるときは相手かまわずしゃべり続けていました。これが実に明瞭な発音で、思わず聞きほれるような声だったのです。
おもしろかったのは、彼女が複数の友人に立て続けに電話をかけ、何度も何度も同じ話を繰り返すことでした。私はいつも、近くで本を読みながら耳をダンボにして聞いていたので、(盗み聞きじゃないですよ。家じゅうに響くような声でしたから・・・)まさに生きたリスニング教材です。
なかでもよく覚えているネタがあります。あちらの親御さんは、日本と違って自分の子供を平気で自慢するのですが、その典型的な例でした。その日も友人宅に電話した彼女は、
「ねえねえねえ、ちょっと聞いてよ。今日、うちのフレディ(当時2歳)が何て言ったと思う?お姉ちゃんのクララがいつもクラリネット使ってるじゃない?きっと、それを見てたのね~。自分のおもちゃの笛を出して、“これ、フレディネット”だって~!! クララのがクラリネットだから、フレディのフレディネット!! ハハハハハハハハ、す~っごいセンスだと思わない?(さらに大笑いが続く)」
(・・・どこがそんなおもろいねん)首をひねりながら聞いていた私の横で、話し終わった彼女は、またすぐ別の友人に電話をしました。で、再び同じ話を始めたのです。終わるとみたび別の友人へ・・・。そのパターンが繰り返されること約10回!
まるで、落ちのわかった同じ漫才を延々と聞かされる気分だった私は、しまいに(もう、ええって!)と突っ込みを入れるところでした。こんなどうでもいいことばかり10年も記憶している私って・・・。
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