食習慣の違い
日本とスイスでは食習慣が違います。でも、そのことは最初からわかっていたので、ホームステイ先ではベジタリアンのメニューにも適応できたし、和食が食べられなくても平気でした。
それよりつらかったのは、“1日に一度しか温かい料理を食べない”というスイスやドイツの習慣でした。あちらの食事は脂っこいため、健康のためにそのほうがよいと考えられていたようです。
たとえば、朝食にパンとチーズ、昼食にパスタとサラダと食べたとします。そうしたら、お昼に既に温かいものを食べているから、という理由で、晩ご飯はまた、パンとハムなど火を通さない物しか食べられないのです。
これは、家庭によって方針が違っているようですが、私の滞在した家ではこんな感じでした。毎晩、温かいご飯とおかずを食べることに慣れていた私は、こういう晩ご飯のメニューはちょっと寂しかったですね。
でも、少なくとも食事にありつければまだありがたかったのです。そのホームステイ先では、ときどき夕飯の出ない日もあったんです。
たとえば、お昼過ぎにみんなで外出してピザを食べ、夕方帰ってきたら、その日の食事はもう終わり、という感じでした。当時、学校の長期休暇中に、ベビーシッターをする代わりに無料で同居させてもらっていた私は、肩身が狭く、おなかがすいても我慢するしかなかったのです。
ところが、ある夜、例によって晩ご飯が出なかったとき、9時ぐらいになって、奥さんが何気なく「ひょっとして、おなかすいてんの?」ときいてきたのです。お昼を食べたきりだったので、すいているにきまってます。
私が遠慮がちに答えると、彼女はきょとんとしてこう言いました。「じゃあ、なんでじっとしてるの? 勝手に冷蔵庫あけて、自分の分だけ何か作って食べればいいじゃない」(え・・・?)私はあ然としました。
よそ様の家の台所で、冷蔵庫をあけて食べ物を物色したり、家族みんながいる前で、自分の分だけ調理して食べろだって・・・??日本でだったらまずありえないことです。
(そんな利己的で失礼なこと・・・) 私がとまどっていると、彼女だけでなく、家族全員が、「全然かまわない」と言うのです。日本よりは個人主義の国だとはわかっていましたが、まさか、ここまで極端だとは・・・。
それを知ってから、私は勇気を出して、空腹時には自分の分だけの食事を調達することにしました。けれども、最初は「おなか減ってないから」と言っていた家族たちも、いざ私が調理したものを運んできたら、ものほしそうな顔をすることがよくあったんです。
そんな中でひとり食事を楽しむわけにはいかず、結局、人数分作ってあげるはめになったこともしばしば。ほんと、みんな調子いいというか、中途半端な個人主義ですよね。
それなら、最初から当番を決めるか、協力しながら作ればよかったものを、何しろ、いきあたりばったりが好きな人たちだったので・・・。私のスイス生活の中で、もっともひもじかった思い出です。
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