謝罪しなかったドイツ人

スイスやドイツで過ごした1年間の中でときどき感じたのは、ドイツ語民族は“簡単にはあやまらない”ことがある、ということでした。こちらからみて、明らかに当人に過失がある、と思われる場合も含めてです。

もちろん、性格は人によって違うので、スイス人やドイツ人全員がそうだ、というわけではありませんが。

キャンドル

それで、いつも思い出すのがこの出来事です。スイスの寄宿学校にいたある日の午後のこと。私は授業の空き時間を利用して地下のコンピュータールームにいました。

作業を終えた私は、いつものように部屋の戸締りをして廊下に出ました。そして、地上へ通じるドアを開けようとすると、なぜか外から鍵がかかっていてドアが開きません。

(え、なんで!出られへんやん・・・)焦った私は、誰かに気づいてもらおうと鉄の扉をドンドンとたたきました。しかし、反応がないのです。

(え~、困ったなあ・・・。閉じ込められたってこと?)たまたま、地下の各部屋には私のほかに人影はなく、外と連絡をとるための電話もなく、PCもネット接続されていません。これは不気味な状況です。

しかも、あと30分ほどで私はあるクラスに出席せねばなりませんでした。しかたがないので、なおも手で力まかせにドアをたたき続けること十数分。手が痛いのをがまんしながら、必死になって「開けて~!」と叫んでいました。

しばらくして、やっと誰かが通りかかったらしく、ドアが不意に開きました。私が外へ出ると、目の前には心配そうに見守る生徒たち数人とドイツ人女性教師ひとりが立っていたのです。

なんでも、このドアの鍵はこの教師の管轄で、先ほど、中には誰もいないだろうと思い込んで、うっかり鍵をかけてしまったらしいのです。

それはまあ、不注意だからしようがないとしても、普通、こういう場合はどうします? 結果的に人を閉じ込めてしまったんだから、私だったらまっ先に(ごめんなさ~い)って感じであやまりますよ。でも、このドイツ人は平気な顔で、「あら、中にいたの」と言っただけでした。

(ちょっと!ひとことあやまってもいいんちゃうの) ムカッときた私は、閉じ込められた状況を説明しながら彼女に抗議しようとしました。もし、その間に火事とか起こってたらアンタのせいで死んでたかもしれんねんで・・・!

すると、彼女はなおもケロッとしてこう返したのです。「でも、今はほら、ちゃんと外に出られたんだからいいじゃないの」 ---もう、コケそうになりますね~。そういう問題とちゃうねんけど・・・。

その後のやりとりは覚えていませんが、この発想がドイツ人独特のものなのか、この女性の性格によるものなのか興味深いものがあります。あるいは、相手が日本人のボランティア教師だから軽くみたのでしょうか。

ちなみに、ドイツ語には、「ごめんなさいね」と素直に非を認める謝罪表現が見当たらず、”Entschuldigung!” (すみませんが・・・)や ”Es tut mir leid!”(そりゃ残念だ)のニュアンスはちょっと違うんですよね。これも、国民性が表れたものなんでしょうか。

もしこの女性が、私の出会った唯一のドイツ人だったら、ドイツ人全体の印象めちゃくちゃ悪くなってたかも・・・。

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