勝ち組よりすごいかも
前回の記事で取り上げたスイス在住の日本人男性について。この人がヨーロッパに移り住んで幸せになれたのは、ひとつには、日本脱出の動機が、いわゆる“現実逃避”ではなかったからだと思います。
彼は、学歴社会で挫折するどころか、東大に入学して何不自由ない学生生活を送っていたのです。そのまま卒業していれば、一流企業に入社して出世できたかもしれません。
少なくとも、何もかも捨てて、言葉もわからないスウェーデンでいちからやり直すよりは楽だったのではないでしょうか。
今だったら、彼が日本に残ってそれなりの社会的地位を築いていたら「勝ち組」なんて呼ばれていたでしょう。
当時、この表現自体はなかったにしても、そのように人間を分類する風潮はあっただろうし、この人はそういうのがいやだったんだろうと思います。
(ちなみに、私も「勝ち組」「負け組」って分け方はあまり好きにはなれません。誰が何の尺度で決めるんですかね~。)
でも、日本人としてのやさしさを失ってしまったわけではなくて、初めてスイスへ来た私の悩み相談にも乗ってくれたのです。
ホームステイ先での食事を巡るトラブルのことも話しました。チューリヒの街を案内してもらっていたとき、以前、夕食抜きの日があったという話をして、「スイスの食習慣について私が勉強不足だったんでしょうか」ときくと、彼は、それは違うと答えました。
「だって、お客さんが来てるのに、夜9時までほったらかしにしてから“おなかすいてるか”ってきいてきたんでしょ?信じられないよ、そんな非人間的なふるまいをするなんて」そして、彼は、「今晩も夕食抜きだったら困るからね」と言って、たまたまもっていたバナナを1本私にくれたのです。
なんか、街中での大人の行動としてはちょっと変だし笑えますよね。でも、当時の私としては切実な問題だったので、ありがたくめぐんでいただきました。
さらに、後日、“そういう事情なら”と気を遣ってくださって、ホームステイ先まで夕食を作りにきてくれたのです。もちろん、家族の人たちも私も大喜び。詳しいメニューは忘れましたが、スイスの固い豆腐をさいころ状に切ってカレー風味に炒めた一品が記憶に残っています。
台所で調理を手伝いながら、その手際よさと料理の腕前に感心したのも覚えています。その夜は、それは楽しくにぎやかで、おいしい食事会となりました。
今でも脳裏に焼きついている、スイスで会った風変わりな日本人の思い出です。こういう人って、「勝ち組」の概念をはるかに超えてるのかも・・・。
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