ロシアはなぜ、ウクライナに侵攻したのか
ついに来るところまで来てしまった、大国ロシアによるウクライナ侵攻!
まさに、「第二次大戦以降の国際史上、最大の危機ではないか」とまでいわれています。
この問題に接して最初に思い浮かぶのが、次の2つの疑問ではないでしょうか。
Q1) Why has Russia invaded Ukraine? (ロシアはなぜ、ウクライナに侵攻したのか)
Q2) What does President Putin want? (プーチン大統領は、何を求めているのか)
この2点をまず押さえないと、「ウクライナ危機」の全体像が見えてきません。
ロシアがなんの大義名分も目的もなしに、隣国に突然攻め込むはずはないですから。
ロシアのウクライナ侵攻をBBCニュースが解説!
ネット上のさまざまな情報源のうち、今回、ご紹介したいのがBBCニュースの英文記事です。
上記2点を理解するために必要な要素が、項目別にわかりやすく網羅されているからです。
「NATOの東方拡大」などヨーロッパ軍事勢力の変遷を、ソ連時代にさかのぼって解説しています。
この記事をお勧めするもう1つの理由は、ほぼ英文に対応した和訳版があることです。
「英文記事の意味を日本語で確認できる」というのは、読者にとって非常にありがたいですね。
ここからは、英文記事のうち、先ほどの2つの問いに対する回答部分に焦点を当てていきます。
ロシアはなぜ攻撃したのか【Why have Russian troops attacked?】
まず1つ目の疑問に関して、英文記事の第4・第7段落に次の説明があります。和訳版と合わせて引用します。
In a pre-dawn TV address on 24 February, he declared Russia could not feel “safe, develop and exist” because of what he claimed was a constant threat from modern Ukraine.
2月24日の夜明け前、プーチン大統領はロシアが「安心して発展し存在」することができないと主張した。今のウクライナが常にロシアにとって脅威だからだと。
語句の注釈)pre-dawn:夜明け前の、 TV address:テレビ演説、 claim(主張する)
上記の「he」はもちろん、「President Putin」を指しています。
He claimed his goal was to protect people subjected to bullying and genocide and aim for the “demilitarisation and de-Nazification” of Ukraine.
自分の目的は、威圧され民族虐殺に遭っている人たちを守るためだとしたほか、ウクライナの「非軍事化と非ナチス化」を実現するのだと述べた。
語句の注釈)(be) subjected to:〜にさらされた、genocide:大虐殺
おそらく、プーチン氏が唱えるこれらの大義名分を聞いて、(なるほど!)と納得する人はほとんどいないでしょう。
BBCニュースの記者自身もそう感じていることが、記事中の次の記述からわかります。
Many of President Putin’s arguments were false or irrational.
大統領による正当化の理屈は、ほとんどが事実と異なるか、非合理だった。
さらに、記者がプーチン氏の主張を「false or irrational(事実と異なるか、非合理)」と断定する根拠がこちらです。
There has been no genocide in Ukraine: it is a vibrant democracy, led by a president who is Jewish.
ウクライナで民族虐殺は起きていない。ウクライナは活発な民主国家で、大統領はユダヤ系だ。
「led by a president who is Jewish(ユダヤ系の大統領に率いられている)」の前に、「which is(関係代名詞の主格+Be動詞)」を補って解釈します。
これらの記載から判断すると、プーチン氏の言い分は、単なる「pretext(本当の意図を隠すための口実)」にしか見えません。
プーチン氏の狙いは何か【What does Putin want?】
では、2つ目の疑問については、どう説明されているでしょうか。
記事中に、同名の小見出しの後で次の記述があります。
He has not only demanded that Ukraine never join Nato but that the alliance turns the clock back to 1997 and reverses its eastward expansion.
プーチン氏は、「ウクライナがNATOに加盟しないこと」「NATOの範囲を、東方拡大する以前の1997年時点の状態に戻すこと」を要求している、という趣旨です。
文中の「the alliance(その同盟)」は、「NATO」の置き換え表現です。
また、彼の要求の根拠は、次の通りです。
In President Putin’s eyes, the West promised back in 1990 that Nato would expand “not an inch to the east”, but did so anyway.
プーチン大統領からすると、西側は1990年の時点で、NATOが「一寸たりとも東へ」拡大しないと約束したのに、それでも東方に拡大したということになる。
「did so(そのようにした)」とは、「expanded to the east(東方へ拡大した)」を意味しています。
つまり、「西側の自由主義諸国が、1990年時点の約束を破った」という解釈になります。
同記事では、「ここにプーチン氏と西側諸国の見解の相違がある」として、以下のように解説しています。
That was before the collapse of the Soviet Union, however, so the promise made to then Soviet President Mikhail Gorbachev only referred to East Germany in the context of a reunified Germany.
西側の約束はソ連が崩壊する前のことだ。なので当時のミハイル・ゴルバチョフ・ソ連大統領への約束は、ドイツ再統一の文脈における東独についてのものだった。
「the promise (which was) made to then Soviet President Mikhail Gorbachev」というふうに、( )内に「関係代名詞の主格+Be動詞」を補って解釈します。
「then Soviet President Mikhail Gorbachev」の「then」は、「当時の」を表す形容詞です。
「ウクライナ危機」を時事情勢と英文読解に絡めて読み解く!
以上、「根本的な2つの疑問」についての説明をBBCニュースから引用し、補足解説しました。
冷静時代から現在に至る欧州の変遷から、「ウクライナ危機」の背景が少しずつ見えてきませんか。
BBCの記事を読む限り、ウクライナ侵攻に関するプーチン氏の説明はあくまで建前であり、本当の狙いは「NATOの東方拡大の阻止」であるように感じます。
が、もちろん、これは「あくまで1つの解釈」なので、異なった見解もできるかと思います。
次週の「通訳式やさしい英語ニュース」では、このBBCニュースを土台としたディクテーション課題を出題します。
その予習として、余力のある方は、これらの記事(英語編・日本語編)に目を通されることをお勧めします。
コロナ危機とはまた違って意味で「世界史の転換点」になるかもしれない「ウクライナ危機」。
日々刻々と移り変わる時事情勢を、英文読解に絡めてじっくり読み解いていきましょう!
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“ロシアはなぜ、ウクライナに侵攻したのか”へ4件のコメント
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Whatever the reason, wars should be never started!!
こんな暴走は誰もハッピーにならないし、誰からも支持されず、ますます孤立が進むだけだと思います。
Vicky の言う通り、同じような行動を起こそうとする国が出ないかめちゃくちゃ不安だし、全く他人事ではないですね…
The proverb says that it is never too late to mend, but as for Putin, it is too late to mend. “Putin’s war” cannot be forgiven. It is shameful that Russia has denied its people their basic rights to know the truth and to speak out. From history we have learned how difficult to convince a tyrant who is suffering from the trauma of losing his own empire. As yet there has been no better means than economic sanctions in order to prevent more bloodshed.
「死にたくない」と涙を流すウクライナの男の子の映像を見て、強欲な大人の罪深さを情けなく思いました。民主主義が屈しないためにどれほどの犠牲を強いられるのでしょうか?
この有事の行方は独裁者らに次の行動にでるきっかけを与えるでしょう。中国による台湾の侵略が始まったとき、北方領土への圧力が高まったとき日本はどうすべきなのか。アメリカ頼みが期待できない今、もはや「他国の戦争」と目を背けることはできない状態です。政治や経済はきれいごとではないですが、英語力を高める意義のひとつとして、よりバイアスが少ない情報が得やすくなることで政治や経済に対する理解を自分なりに深めていければと思っています。
“What’s the world coming to?” I guess that has been said since always, but there seems to be no other time when it sounds more serious and realistic than today. I thought fighting the prolonged Covid-19 pandemic was tough enough. Now, one ruthless dictator is taking more lives and breaking more hearts. What he has said about Ukraine doesn’t make any sense. It’s just that he wants to show his power to satisfy his ego. I have no idea where this is going and what we can do to help innocent people.
コロナだけで十分大変で、世界中が心を1つにして頑張らなければならない時に…一体この先どうなっていくのか?私たちに何ができるのか?悲観的な気持ちにならざるを得ません。