英文で読む【スミスのビンタとジダンの頭突き】

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今年のアカデミー賞授賞式で、俳優のウィル・スミスが司会者のクリス・ロックを平手打ちした例の騒動。

よく比較されるのが、2006年W杯サッカー・ドイツ大会の決勝で、元フランス代表のジネディーヌ・ジダン選手が対戦相手を頭突きした有名な場面です。

https://twitter.com/primevideosport/status/1148587544545779714?s=20&t=F_SviXIXjRr7CpJRV5MwqQ

先日の自分の授業で、ある受講生の方が「スミスのビンタで “ジダンの頭突き” を思い出した」と発言されたことで、にわかに遠い記憶がよみがえってきました…。

(なるほど!確かにこの2つ、状況が似てるかも)

この指摘をきっかけに、2006年7月に書いた英語ニュース「MVP with red card」を思い出し、ディクテーション課題として出題するに至ったのです。

英文記事で読み解く【スミスのビンタとジダンの頭突き】

というわけで、今回は、この両者の類似点に着目した「The Citizen」の英文記事を取り上げます。

こちらは、類似テーマを扱った「ヤフー・ニュース」の和文記事です。

※一定期間を過ぎると、記事が削除されている場合があるのでご了承ください。

英文記事がかなり長いので、後半の「ジダン選手に関する記述」のみを抜粋します。

英文読解の参考となるよう「和訳例」「語句の解釈」「ミニ解説」を入れています。

また、和訳は、英語の流れに沿って訳す「サイト・トランスレーション」形式にしました。

「報復」という同じ罠に落ちたジダン

During the 2006 World Cup in Germany, / Zinedine Zidane, / an equally respected athlete and one of the finest players of all time, / fell under the same trap and spell. / Spell and trap of retaliation. / France were definitely expected to win. / France leading. / France in jubilation. :「THE CITIZEN」 より

和訳例)2006年のW杯ドイツ大会で、/ ジネディーヌ・ジダンは、/ (ウィル・スミスと)同様に敬愛されたアスリートであり、サッカー史上最高の選手のひとりだったが、/ (スミスと)同じ落とし穴に落ちた。/ 報復という呪いの罠である。/ (決勝戦は)フランスが圧倒的有利の予想だった。/ フランスが先制した。/ チームは盛り上がった。

語句の注釈

trap(名)罠、spell(名)呪文・呪い、retaliation(名)報復、jubilation(名)歓喜

ミニ解説)「Zinedine Zidane」と「an equally respected athlete and one of the finest players of all time」は、イコールで結ばれる同格表現です。

「fell under the same trap and spell」は、「fall under the spell of A(Aの呪い・魔法にかかる)」という表現が元になっています。

「equally respected(同じく敬愛された)」と「the same trap(同じ罠)」は、このときのジダンをスミスと比較した表現です。

両者ともに「 “暴力で報復する” という同じ間違いを犯し、評判を台無しにした」という意味ですね。

「France were definitely expected to win」のbe動詞が複数形になっているのは、主語「France」が「the French players(フランス代表の選手たち)」を指しているからでしょう。

「France leading. France in jubilation.」の部分は、あえて次のbe動詞を省略しています。

「France (are/is) leading. France (are/is) in jubilation.」

英文が短くなることで、生き生きとしたリズム感が生まれています。

試合の経過

決勝戦は、前半7分にフランスがジダンのPKで幸先よく先制し、その12分後、イタリアがマテラッツィのシュートで同点に追いつきました。

その後、試合は一転して膠着状態となり、90分では決着せず延長戦に突入・・・。

奇しくも、互いに唯一の得点を上げた両選手が衝突したのは、この延長戦の後半5分でした。

ジダンを執拗にマークしたマテラッツィ

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Zidane, a gifted artist on the ball, / a natural flowing soccer prince with Algerian roots, / was said to have been “provoked” / by Italian defender Marco Materazzi . / The Italian kept physically taunting Zidane. / After the third time, / having pulled Zidane’s jersey, / the two exchanged words. :「THE CITIZEN」 より

和訳例)ジダンは、ボールを操る芸術的才能があり、/ 天性のボールさばきを見せるサッカー界のプリンスであり、アルジェリア系移民だったが、/ 「挑発された」といわれている、/ イタリアのDFマルコ・マテラッツィによって。/ このイタリア人選手(=マテラッツィ)は、ジダンを抱え込むようにマークした。/ 三度目の衝突の後、/ 彼がジダンのジャージを引っ張り、/ 二人は口論した。

語句の注釈

provoke(動)挑発する、taunt(動)なじる、あざける

ミニ解説)「Zinedine Zidane」と「an equally respected athlete and one of the finest players of all time」は、イコールで結ばれる同格表現です。

また、英文記事では、スポーツ選手を「The Italian」のように国籍で表すことがあります。この文脈では、マテラッツィ選手を指しています。

「kept physically taunting」を直訳すると「身体的になじり続けた」となり、意味が正確に伝わりません。

ここでは、「対戦相手の身体を押さえて攻撃を封じる」サッカーの戦術を表しているため、「抱え込むようにマークした」と意訳しています。

「the two exchanged words.」は、単に「二人が声をかけ合った」というより、「両者の間で、激しい言葉の応酬があった」という意味合いになります。

「ジダン家の女性をマテラッツィが侮辱した」という憶測

It is unclear what was said. / But ill-confirmed speculation and hearsay, / is that Materazzi “insulted” Zidane’s female side of family. / The exact words? / So many versions. / Some claim it was about his sister; / others, his mother. / Materazzi actually sued some British newspapers / for printing unfounded allegations. :「THE CITIZEN」 より

和訳例)(ジダンが)何を言われたのかは定かでない。/ が、憶測やうわさでは、/ マテラッツィが、ジダン家の女性を「侮辱した」とされている。/ 正確には何と言ったのか?/ さまざまな説がある。/ ジダンの姉の話だという人もあれば、/ 母親だという人もいる。/ 実際、マテラッツィはイギリスの新聞を提訴したぐらいだ、/ 根拠のない主張を記事にしたとして。

語句の注釈

ill-confirmed(形)未確認の、speculation(名)推測、hearsay(名)伝聞・うわさ、allegation(名)十分な証拠のない主張

ミニ解説)マテラッツィがジダンにどんな言葉を投げかけたのか、この記事では明らかになっていません。

が、別ソースによると、近年、マテラッツィ本人が『インスタライブ』で、真相を次のように語ったとのこと。

“After the third clash, I frowned and he retorted: ‘I’ll give you my shirt later’. I replied that I’d rather have his sister than his shirt.” : Zinedine Zidane: What did Marco Materazzi say to him in 2006 World Cup final?  Givemesport (26 Mar 2021)

3度目の衝突で苛立ち、彼が『あとで俺のユニフォームをやるよ』って言ってきたから、私は『ユニフォームよりお前のお姉ちゃんがいいな』と言ったんだ……」:ジダン頭突きの真相は…マテラッツィが挑発を明かす「お前のお姉ちゃんがいい」 Soccer King (2020年5月4日)

「I’d rather have his sister than his shirt.(ユニフォームよりお姉ちゃんがいいな)」

・・・長年、さまざまな憶測を呼んだ発言の中身が、まさか、こんなバカげた冗談だったとは!

身も蓋もない感想ですが、まあ実にくだらないというか、拍子抜けしてしまいますね。

ジダンが頭突きを見舞って一発退場

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WHATEVER WAS SAID / made the French captain turn and spin 360 degrees. / And that is when we saw, / live on TV, / Zidane do the famous headbutt. / He rammed his skull into Materazzi’s chest. / An iconic moment. / Zidane got the red card. / France lost. :「THE CITIZEN」 より

和訳例)何を言われたにせよ、/ それが原因で、フランスのキャプテン(=ジダン)は(先回りしてから)くるりと振り向いた。/ そして、我々がそのとき目にしたのは、/ テレビの生中継で、/ ジダンが、あの有名な頭突きを食らわす場面である。/ 彼は、自分の頭蓋骨をマテラッツィの胸元にぶつけた。/ 象徴的な瞬間だった。/ ジダンは、レッドカードで一発退場となった。/ フランスは負けた。

語句の注釈

spin 360 degrees:1回転する、headbutt(名)頭突き、skull(名)頭蓋骨、iconic(形)象徴的な

ミニ解説)いよいよ、W杯の歴史に残る「ジダンの頭突き」を描写する場面です。さしずめ、ここがクライマックスでしょうか。

中でも、最後の3文は「短文の連続」が秀逸でドラマチックです。

「An iconic moment. 」は、「 (It was) an iconic moment.」の主語・動詞をあえて省略しています。

続く「Zidane got the red card. 」も、必要最小限の単語しか使っていません。

締めの「France lost.」はまさに、「体言止め」に似た余韻のある表現です。

たった2単語で、「世界が絶句した衝撃的な結末」を見事に伝えています。

まるでコマ送りの映像のように、試合風景がありありと目に浮かんでくる描写です。

試合の経過

チームの大黒柱だったジダンの退場後、同点のまま延長後半を終えた決勝戦は、ついにPK戦による決着を迎えます。

結果、フランスの2人目がクロスバーに当てて外したのに対し、イタリアは5人全員がPKを決め、下馬評を覆して優勝をもぎとりました。

ジダンの16年後に同じ報復をしたスミス

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As profound and as shocking and as historic / as Will Smith slapping Chris Rock.
/ No one spoke of the offence. / All eyes turned towards the retaliation.
/ As was Zinedine Zidane in 2006, / so is Will Smith in 2022, / 16 years later. :「THE CITIZEN」 より

和訳例)(ジダンが対戦相手に頭突きをしたことは)重大で衝撃的であり、また歴史的だった、/ ウィル・スミスが、クリス・ロックを平手打ちしたのと同様に。/ 暴言を取りざたする者はいなかった。/ 皆が注目したのは報復のほうだ。/ 2006年のジダンがそうだったように、/ 2022年のウィル・スミスも、これに当てはまる、/ 16年の歳月を経て。

語句の注釈

profound(形)深遠な、offence(名)暴言・侮辱

ミニ解説)最初の文は、次のように(  )の「主語+be動詞」を補って解釈します。

(Zinedine ramming his skull into an opponent’s chest was) as profound and as shocking and as historic as Will Smith slapping Chris Rock.

ここでようやく、「頭突きをしたジダン」と「平手打ちしたスミス」の比較が出てきます。

「No one spoke of the offence.」は、先に侮辱発言をしたロックとマテラッツィ。

「All eyes turned towards the retaliation.」が、頭にきて暴力をふるったスミスとジダン。

「暴言を吐いた側」がとがめをうけず、「暴力で応じた側」だけが責められる、というのは誇張です。

ここでは、「言葉の暴力より、身体的暴力のほうが重大」ということを伝えたいのでしょう。

この一節も、コンマで区切った最後の1文が効いています。

「As was Zinedine Zidane in 2006, so is Will Smith in 2022, 16 years later.」

韻文調のリズムで両者の共通点を際立たせ、「16 years later.」で簡潔に締めています。


以上、英文記事読解の参考になりましたら幸いです。

二人を比較する記事を検索して偶然見つけたのですが、なかなか読みごたえがありますね。

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2006年のW杯ドイツ大会決勝、私もテレビの生中継で観戦した記憶があります。

贔屓のイタリアが優勝して良かったものの、「ジダンの頭突き」があまりに衝撃的でした。

(えっ・・・この人、これが現役最後の試合やろ? こ、こんな終わり方でいいんか?!)

(キャプテンの一発退場でチームが負けて、その張本人がMVPに選出される・・・皮肉やな)

この当時、渦巻く様々な感情に揺れながら、英語ニュース「MVP with red card」を書いたのだと思います。

英文記事の読み込みを通じて、2006年W杯ドイツ大会のなつかしい記憶がよみがえってきました。

【参考】FIFAのハイライト動画(2分34秒):2006 WORLD CUP FINAL: Italy 1-1 France

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英文で読む【スミスのビンタとジダンの頭突き】”へ2件のコメント

  1. June より:

    ウィル・スミスのビンタで16年も前のジダンの頭突きを思い出したのが自分だけではなかったことを今回の記事で知りました。

    テレビの生中継で見た衝撃が鮮やかに蘇り、今回の記事は大興奮してしまいました。

    キャリアの頂点に上り詰めた瞬間、全世界が見守る中で大失態をする、ということに非常な感慨を覚えました。どんな名誉を手にした人間にとっても愛する家族はアキレス腱なのですね。

    暴力に対する意識の高まりや、スポーツとフォーマルなセレモニーという場の違いなど、今回のウィル・スミスの方がより批判が厳しいのではないかと思います。

  2. ムック より:

    先日の読売新聞に、タイムリーながら、sticks and stones が載っていました。

    sticks and stones may break my bones, but words will never hurt me(《棒や石は骨を折るかもしれないが、言葉は少しも傷つけない》。他人に嫌味な言葉を言われてもいちいち傷つく必要はない)と解説があり、「言葉の暴力より、身体的暴力のほうが重大」という考え方に納得しました。

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