ラケットを置いて銃を取った元ウクライナ選手
(あのスタコフスキーが、ロシアと戦うために軍隊入りを決めたって?!)
ネットのニュースでこの一報を聞いたとき、大きな衝撃を受けました。
A former Ukrainian tennis pro left his family to go fight Russia, saying he decided to go back to his country because he “would like it to still be on a map.”
Sergiy Stakhovsky and his wife did not tell their three young children where he was going. https://t.co/vCvjOfdeVA
— CNN International (@cnni) March 3, 2022
現在、36歳のセルゲイ・スタコフスキー(Sergiy Stakhovsky)は、ウクライナの元男子テニス選手。
かつて、錦織圭選手が苦手としていた難敵のひとりです。
日本のテニス・ファンの間では「スタコ」の愛称で呼ばれ、警戒されていた選手です。
11年前の2011年に、全仏オープンとパリ・マスターズで錦織選手と対戦し、4歳年上のスタコが2回とも勝っています。
その後、2017年のウィンブルドンでは、圭が勝利して一矢報いています。
いかにもスラブ系といった風貌の、長身でニヒルな雰囲気のスタコフスキー。
ダブルスの名手でもあり、ベテランの手練手管で若手を苦しめる、まさに曲者という感じ。
私の中では「なんか腹立つけど、ちょっとカッコいい選手」という印象でした。
CNN記事で読み解く元ウクライナ選手の重い決断
今回は、次のCNN記事を引用しながら、家族を残して祖国に戻ったスタコフスキーを追いました。
対訳ではありませんが、日本語で同じテーマを扱った記事はこちらです。
ここからは、英文記事の主要部分を読み解いていきます。
母国のために戦う決意をしたスタコフスキー
冒頭の2段落はこちらです。読解の参考に、「語句の解釈」と「和訳例」を随時追加しました。
Ukrainian tennis star Sergiy Stakhovsky was vacationing with his family in Dubai when Russian forces invaded his home country.
He made a tough decision to leave his wife and three young children at their home in Hungary and return to his homeland to join the fight. He’s now a member of the army reservists helping defend the Ukrainian capital of Kyiv.
語句の注釈)reservist(名)予備兵
和訳例) ウクライナの人気テニス選手だったセルゲイ・スタコフスキーは、ロシア軍が自国を侵略したとき、家族とドバイで休暇中だった。
彼は、妻と3人の子供をハンガリーの自宅に残し、自国に戻って戦いに加わる、というつらい決断をした。彼は今、ウクライナの首都・キエフの防衛を助ける予備役に加入している。
Stakhovsky had retired from professional tennis only weeks earlier at the Australian Open, ending an 18-year career.
和訳例)スタコフスキーは、わずか数週間前の全豪オープンでプロテニスを引退し、18年のキャリアを終えたばかりだった。
彼が今年の全豪オープンを最後に引退していたのは、今回のニュースで初めて知りました。
なんと、長い現役生活を終えて、ドバイで休暇中だったのに、戦地の祖国へ戻る決断をしたとは!
フェデラーをウィンブルドンで破った実績あり!
Once the 31st-ranked men’s player in the world, Stakhovsky once beat Roger Federer in a major upset at Wimbledon in 2013.
語句の注釈)upset (名)番狂わせ
和訳例)元世界31位のスタコフスキーは、2013年のウィンブルドンで、ロジャー・フェデラーを破る大金星を挙げたことがある。
スタコのテニス・キャリアの中で、必ず紹介されるのがコレでしょう。
「芝の王者」である天下のフェデラーに、ウィンブルドンで勝ったんですから!
彼の快挙は、もっと簡単にこんなふうにも表現できます。
He pulled off an upset win against Roger Federer.
彼はフェデラーを相手に番狂わせをやってのけた。
*pulled off:うまくやり通す、成し遂げる
こういう実績を聞くと、やっぱり「難敵」「曲者」だったんだなあ、と感じます。
「家族を置いていくのはつらい決断」
奥様との素敵なツーショットを発見!
“It’s impossible to make that call without hesitation. I have a wife and three kids,” he said. “If I would stay home, I’d feel guilt that I didn’t come back (to Ukraine), and now I’m here, I feel guilty that I left them at home.”
和訳例)「この判断に迷いが生じるのはしかたがない。妻と3人の子がいるんだから」と彼は言った。「もし自宅にいたら、(ウクライナに)戻らなかったのを後ろめたく感じただろう。で、今ここにいて、家族を残してきたことを申し訳なく感じている」
ウクライナの戦地に行っても行かなくても、どちらにしてもつらい決断だったことでしょう。
スタコフスキーの「心の葛藤」が、手に取るように伝わってきます。
He said they haven’t told their kids, all under age 7, who likely believe he’s at a tennis tournament. “My wife didn’t tell them and I didn’t tell them … where I’m going,” he said. “I guess they’ll figure it out soon.”
語句の注釈)figure out:理解する、把握する
和訳例)子供たちは全員が7歳未満で、本当の理由を話していないので、テニス大会に出かけたと思うんじゃないかな、と彼は述べた。「妻も自分も、私がどこに行くのか話していないんだ。でも、そのうち察するだろうね」
幼いお子さんたちに向かって、「パパは戦争に行く」なんて言えないですよね。
留守を守る奥様の心中を思うと、いたたまれない気持ちになります。
夫が現役を引退し、家族でゆっくり過ごせるはずだったのに、まさか出兵することになるとは…。
とても21世紀の光景だとは思えません。
The Ukrainian government has asked men between ages 18 and 60 to fight against the Russian invasion.
和訳例)ウクライナ政府は、18歳から60歳までの男性に、ロシアの侵攻に対抗するため戦闘に備えるよう要請した。
戦闘が激しくなったのを受け、ウクライナのゼレンスキー大統領が、2月24日に「国民総動員令」に署名しました。
これにより、国内にいる18歳から60歳の男性市民の出国が、全面的に禁止されました。
ジョコビッチがスタコに支援の申し出
こちらは、「元世界1位のジョコビッチとのやり取り」を、スタコフスキーがInstagramにアップした画像です。
「ジョコビッチが支援を申し出た」と、BBC SportがTweetしています。
What a gesture! 💛
Novak Djokovic has offered former Ukrainian tennis player Sergiy Stakhovsky his financial support.
Stakhovsky has returned to Ukraine to defend his country following Russia’s invasion.#bbctennis pic.twitter.com/zh1hSYvpAB
— BBC Sport (@BBCSport) March 6, 2022
かつて、戦地を経験したセルビア人の彼らしい心遣いでしょうか。こういうところはさすがです。
余談ながら、ジョコビッチが「Stako」と呼びかけているのにびっくりしました!
こういう略し方は日本人だけかと思っていたので、なんだか意外でした。
彼が愛する家族に伝えたメッセージ
最後に、スタコフスキーがCNNのインタビューで、家族に伝えたメッセージをご紹介します。
Tennis player Sergiy Stakhovsky has returned to Ukraine to fight Russia.
“This country which I love … and I would like it to still be on the map, develop, become better, become European more, … and eventually my kids can see the transformation of my country.” pic.twitter.com/en1kNUplZE
— The Recount (@therecount) March 3, 2022
和訳例)「愛するこの国が…まだ地図上に存在してほしいし、発展して良くなり、ヨーロッパ的になってほしい」「子供たちも、いつか、ウクライナの変貌を知ることになる」
冒頭の ”I love them very much.” を聞いただけで、じーんときました。
彼の声のトーンから、ご家族に対する深い愛情を感じますね。
本当に、本当に生きて戻ってきてね!Stay alive, Sergiy!
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